海外勤務はエリートだけのものか?ソルジャーとしてのアメリカ転職体験

L1ビザでアメリカに転職(転籍)して1年と数か月経ちました。プロダクトサポートをやりながら、縁があったところに個人的に翻訳などでコントリビューションをしつつ、テキサス州ダラス地区で暮らしています。

以前ビザ取得体験について書きました。今回はLビザ取得までの道のり・学位が足りない問題・英語学習について自分が体験したことを書きます。

情報として目新しいのは学位授与機構の話くらいだと思う。

テクノロジーと言えばベイエリアでしょ的な雰囲気がある中で、ダラスって聞くとがくーっとくるかもしれませんけども、エンプラITソルジャーのアメリカ転籍の体験談なので仕方がないです。

目次

Lで来た

アメリカで働いてみたかった。理由は色々あるけど今から思うとどれも後付けかなと思う。

アメリカで働いている日本人エンジニアといえば思い浮かぶ人はだいたいみんなエリートだ。インターネットで見かける人は本当にだいたい東大卒だったりGoogleとかAppleとかFacebookとかAmazonとか名だたる企業所属だったりで、本当にだいたいベイエリアとかシアトルで働いている。

私もある程度大人になっているし、自分が今からそんな風になれないことはわかっていた。エリートとは同じようにはいかない。専門学校卒で大学を出ていないし、技能的にもボリュームゾーンである自分が有名巨大企業に入ることは望むべくもなかった。

しかし長いことエンプラITソルジャーとしてズブズブに働いていたので、ソルジャーとしてならいけるんじゃないかといつしか思うようになった。一旦の結末としては幸運にもその通りになったのでした。

話には聞いたことがあった「アメリカに支社を持つ企業でしばらく働いて、L1ビザで転勤する」というケースは実際にあって、自分もそのルートをたどることになった。

Lビザは転職できない不自由さはあるけど、配偶者も働ける(実はこのポジションは学歴不問で転職し放題だ)のでそれがいい場合もあると思う。レイオフ時のイメトレは予めしておくとして。Lの配偶者で来るのがLで来るより条件がいいという点が渋い。

学位が足りない問題

この話私も何度もそこら中でしてるし散々語られてるんだけど、私は専門卒で大学を出ていないのでUSに来た後も学位取得については常々思いをはせています。

そんな人いるかわからないけども、大学を出ていなかったり、学部が違ったりして学位はないが渡米したいという同じような人への伝言としては、実際のところ必要な分野の学士の学位がない状態でアメリカで働く機会を得るのは一般的には難しいので、英語を勉強したり放送大学で追加の単位を取って先に↓の学位取得クエストを消化しつつ長い目で機を伺うのがいいと思う。ビザの記事 にも書いたとおり。

大学改革支援・学位授与機構

www.niad.ac.jp

大学改革支援・学位授与機構という組織があって、ここは規定分の追加単位を取得した大学中退者や専門学校卒の人に個別の試験を行った上で学士の学位を授与する事業を行っています。

以前は大学評価・学位授与機構って名前だったと思うんだけど、少し見ない間に別人みたいになったなあ。

学士の学位がない人の場合

例えば専門学校卒の人が学士の学位を求める場合、放送大学などで科目履修生になり、2年制卒だと62単位、3年制卒だと31単位(と予備いくつか)を取って、大学改革支援・学位授与機構に申請し、試験を受けて学位をもらうという方法が一番実現性が高いと思う。

やってみた結果、働きながら31単位(と予備いくつか)を取得することは、1年でもできないことはないだろうけどしんどかった。私は1年で16単位ほど取得したところで挫折してしまった。2~3年で考えるのが無理がないと思う。スモールスタートできるし、働きながら受験や編入をするよりはずいぶん現実的だと思う。

大卒の人が追加の学位を取得する場合

先日 id:fushiroyama さんの記事 で、他の学位があるのにCSの学位がないためにビザ審査に引っかかるという事例を拝見しました。

このケースの対策として、機構の資料から、またWikipediaにも大卒者も機構で学士の学位を申請可能との記載がみられ、ここで追加の学位取得を行う方法がありそうです。

取得済み単位の種類によりますが、最小で16単位程度で申請できる可能性があります。ここで学士(工学)を申請する方法は渡米準備として現実的かもしれません。スモールスタートできるところもいいと思います。

詳しくはこちら

どちらの場合でも「新しい学士への途」という力強いタイトルの資料で自分に必要な単位数や実際の申請プロセスを確認できます。専門学校や大学で取得済みの単位の一覧があると便利です。

単位取得のあとに「学修成果」と呼ばれる卒論的なものの作成や試験があり、進行は年次のバッチ処理なのでそこそこ時間がかかります。気になる方は一度上の資料を見てもらえるといいです。

そしてもちろんどちらの場合でも、クエスト的に考えるのではなくて、正面から3年次編入して学士、大学院進学して修士や博士の学位取得に取り組むことは歓迎されることと思います。

英語学習

私は30歳近くまで全くと言っていいほど読み書きもできない状態だったけど、数年間勉強し、転籍から一年過ごして、読む・書く・聞く・話す、さすがにどれもだいぶ上達したように思う。実態としては今も不自由していて、仕事も生活もサバイブしている感じです。

いま堪能でない人が本気で上達を望むなら、TOEIC600くらいまでは参考書で自力で勉強して、その点数で就ける英語を使う仕事に転職するのが一番いいと思う。私は月謝1.5万円くらいのカルチャーセンターの英会話教室上智大学公開講座に通っていたけど、冷静に考えて週1回程度1時間話すくらいで上達するわけがないと気付き転職を決めた。

ただ、カルチャーセンターや大学の公開講座へ通うことはTOEIC340だった私には必要なプロセスだったと思う。カルチャーセンターの英会話教室ではいい先生の授業を受けられたし、上智大学公開講座は平日夜に30人以上いるような中級クラスに無謀にも挑み「みんな英語話せるんだな~」と大きな刺激になった。

本気のカリキュラムで英会話教室へ行くとかなり高いお金を払ってプライベートの時間で勉強をすることになるけど、英語を使う仕事に転職をすると勉強もできてお給料ももらえる。これはうれしい。毎日のことになるし、ドメイン知識を活かせるから勉強も捗る。これは本当におすすめ。IT業界なら比較的実現しやすいと思う。

TOEIC600くらいまでは既に語られつくしている方法で地道にやるしかないと思われる。手元の記録によると2008年5月:340 → 2011年5月:355 → 2013年5月:595で、615くらいのスコアで英語を使う仕事へ転職した。その後4か月で720になった。なお地道な方法とは「単語を覚える→参考書で文法を勉強する→本やWebで文章を読む、サンプル音声を聞く」を無限にループするといったものです。

私はスモールスタートできるものからとにかく色々やってみるというのをやった。中でもTOEICの連続受験が自分には合っていた。2012年は6回受けた。問題も面白いしオタク化要素があってハマる。TOEIC対策は公式参考書全部やるのがおすすめ。

ほか、金フレ、フォレスト、キクタン、iKnowコストコで買った英語のTOEIC参考書、Basic English Usage、Grammar in Use、新宿住友ビルのカルチャーセンター通い、上智大学公開講座通い(宿題あってしんどかった)、放送大学の英語の授業、転職、ECC体験、ベルリッツ体験、ハッカーニュース読む、FML読む、翻訳コントリビューション、BCC podcast、rebuild.fm、バイリンガルニュース聞くなどなど。徐々にエスカレートしている様子がある。

書き出すとこれだけか。方法自体は何でもよくて自分に合うものを見つけて続けることに効果があるんだと思う。TOEICで勉強した英語はけっこう生活に役に立っています。設備不良や予定変更のアナウンス本当にあんな感じ。

そして英語を話す文化圏で交流すると、日本の学校の勉強だけで話せるようになっている人がわりといておおっとなる。それが本来なんだろうけども。英語学習は何かをなすための手段なのに、大騒ぎしている自分が情けなくなる。

あとは周りの影響もあって、尊敬する先輩と飲んでいるときに「実は英会話通っている」と聞いて、当時20代前半で仕事だけで手一杯だった私はこんなスーパーマンみたいな先輩も現状に満足せず未来に向かって努力を…と、あまりの眩しさに心に焼き付いてしまった。得意でもない英語に挑戦し始め、なんだかんだ続けられたのはこの件の影響を受けていると思う。

手段の目的化はあぶない

USに拠点を移すことに焦点を絞るのは手段の目的化で、これはぽしゃったときに目的地を見失い人生に悪影響を及ぼす可能性があってあぶないと思う。

なので、人生のグランドデザインのマイルストーンの一つとして考えておき、自分の求めるチャンスの可能性が大きいほうへどうにか舵を切っていき、機がきたら思い切って挑戦する覚悟を持っておくといったような感じがいいと思う。プロセスそのものに充実を感じられるようにするというか煮詰めて濃度を上げるというか。主語の大きいインターネット表現をしてしまった。

こういう感じでいくと具体的な失敗があっても目的とする方角を見失うことがなく、一回ずつの個別の失敗事象について落ち込まなくていいので、人生そのものに悪影響を及ぼしにくいと思う。

私の場合はこのようにしており、実際US行きを意識し始めてからの5年間には具体的な失敗もありました。(せっかくたどり着いた良ポジションの選考に落ちるなど)

5年間のあゆみ

2011年

US行きを真剣に考え始めたのはたぶん2011年頃で、その夏に翔泳社主催のビジョナリーズサミットというイベントがあってたまたまLTの公募に受かった(サイトも消滅しているし覚えている人もほとんどいないだろうけど)。その懇親会で当時USの会社で働いていた増井雄一郎さんに「わたしもUSに行きたいんですよー」と話し、増井さんのレアケースすぎる渡米話を聞いて励まされ、応援してもらったことを覚えている。またそこには中島聡さんも来ていて著書「エンジニアとしての生き方」にサインをもらい、これはUSにも持ってきた。

この時TOEIC355。最古の記録は2008年の340でした。

2012年

この頃、結果としては失敗に終わるものの、学位取得クエストにチャレンジしていた。

ビザ取得とは最低でも学士の学位がないとどうにもならないということを知り、前述の大学改革支援・学位授与機構で学位をもらうため、放送大学でせっせと単位を取っていた。31単位以上必要なところ、16単位で挫折。学位も取得できず。

TOEICも連続受験して、350→510→505→530→615→580という感じだった。

2013年

数年かけてTOEIC340から600になるまでなんとか英語を勉強し、約10年勤めた国内企業を退職して英語を使う仕事がある企業に転職した。これは間違いなく国内で英語を習得する最強の方法のひとつだと思う。

転職のきっかけは LinkedIn のプロフィールを英語で更新したこと。この手の話はよく見かけるので今でも有効だと思う。当時は直接USへ転職したくて、外国人のリクルーターとも片言の英語で面談をしていたけど、残念ながらビザサポートをもらえるような案件をものにできなかった(国内支社の選考に落ちた)。indeed にキーワードを登録して送られてくるメールをみたりもしたがやはりダメ。その後日本人のリクルーターに英語を使う仕事がある日本国内の企業を紹介してもらい、幸運にも転職することができた。

こう書くと英語習得や渡米目的で転職したような感じになるけど実際の転職の決断においてはそれらはただの付属要素でしかなく、決め手は前職の強みを活かした新しい職域へのチャレンジができるかなり幸運なポジションだったという根本的なものでした。そうでなければ決められなかったと思う。

2014年

記録によると転職して4か月後のTOEICは720だったみたい。

あっさり100以上伸びてて効果てきめんすぎる。これ以降受けてない。

2016年

転勤というか転籍が決まったのは転職から3年後の2016年秋で、USで働きたいなぁと思い始めてからちょうど丸5年経った頃でした。

まとめ

  • デベロッパーH1Bルートだけでなく、Lビザルートも確かにある。
  • ステータス不足はスモールスタートできるものから始めて長い目で補っていくのがいいと思う。
  • ダラス暮らしやすくていいところだよ!


実感としても、英語圏でIT関連の職に就いて働く経験は色々な面でよい効果があると思う。 特に、細く長く自分の状況にあった形で働き続けるための能力を身に付けられるように思う。


私のケースをビザ取得視点で書き出すと以下の通りで、マッチョでダメもとでロングタームなものだ。結果が出てから書くと生存バイアスまるだしのシンプルさだけど、実際はもっと蛇行だった。渡米のためにもなるが、基本的には日々の生活を向上させるための選択の連続という感じで行くのがいいと思う。

  1. 英語が足りないのでまず英語を勉強しつつ
  2. 学位が足りないので学位取得クエスト消化しつつ
  3. US支社がある会社に移って
  4. 仕事をなんとかがんばりつつ
  5. 望むポジションの空きを待ちつつ
  6. すかさず転籍を決断して
  7. ビザ取得クエストをクリアする

やればできるんだからやるだけ的なマッチョ理論はさておいて、ロングタームで続けるには英語学習・学位取得・仕事の内容それぞれに自分なりに上達感や面白み、やりがいを感じる状態が望ましくて、そういう状態であることそのものが渡米はさておきとても幸福なことだなぁと思う。


さいごに。

冒頭のエンプラITソルジャーってなに?って感じですよね。「一人月戦士」的な漢字に振るルビと思っていただけるといいかなと…